第6章 黒獣を従える少年
でも、あたしはそんなこと許さない。
ギリギリの意識を保ちつつ、あたしは自分の血液を操った。
あたしを喰らおうとする黒獣が、血の壁に阻まれる。
「そのような薄い壁で、僕の黒獣が防げるとでも?」
疲労困憊(こんぱい)のあたしと、僅かながらも回復した龍くん。
勝敗は見えているように思えた――のかもしれない。
でも、あたしだってそんな柔じゃない。
あたしの血の壁を喰らう黒獣。
あたしはそれを確認して、指を鳴ら……すことはできなかったけど、ゆっくり瞬きをして血液に指示を出した。
――パンッ
あたしの血を喰らった黒獣が破裂する。
それを龍くんは呆気にとられた表情で見た。
「……これで47戦41勝0敗6引き分け。まだまだね、龍くん」
未だに床から立ち上がれないあたしは、視線だけを上げて得意気に笑って見せた。
あたしの異能と龍くんの異能は共通点が多いけど、ポテンシャルも汎用性もあたしの方が上。
龍くんとは太宰さんのことでよくこうしてケンカするけど、まだ1度も負けたことはなかった。
「……だから太宰さんは己を重用するのだと、そう言いたいのか?」
「そう聞こえたなら、そうなんじゃない?」
別にそんなつもりで言ったわけではないけど、訂正したところで考えを改めるような龍くんじゃない。
「……ふん。思い上がりも甚だしい。僕たちはあの人にとって、ただの駒でしかない」
駒?
馬鹿にしないで。
「あたしは太宰さんの駒なんかじゃない」
言い捨てて行こうとする龍くんが足を止める。
「あたしは太宰さんの剣であり盾だもの」
そして――……。
「そしていつか、あたしは太宰さんを――……」
「それが思い上がりだと言っているのだ! 貴様程度の人間にあの人が殺せるものか‼」
ゴホゴホと咳込みながら、今度こそ龍くんは部屋を出て行った。
部屋にポツンと一人取り残されると、漠然とした孤独を感じる。
シンと静まり返った薄暗い部屋の中で、あたしは感覚の戻って来た拳を握りしめた。
「……思い上がりなんかじゃ、ないもん。あの人を殺すのは、あたしなんだから……」
自殺なんかしてほしくない。
死んでほしくなんかない。
でも、それでも、あたしの知らないところで死んでしまうくらいなら――……。
それなら、あたしの手で死んで……。