第37章 黒社会最悪のコンビ
あたしはスタインベックを放って、太宰さんの後を追いかけた。
そして、何となく怖くて、太宰さんを壁にし、中也を覗き込む。
「戦ってるときの記憶、残ってるの?」
「ぼんやりとだけどな」
中也の口から伝う血が地面を濡らした。
太宰さんの言葉には怒る気力もないのか、血を流しながら中也は睨みつける。
「手前を信用して……『汚濁』を使ったんだ……。ちゃんと俺を拠点まで……送り届けろよ……」
「任せなよ、相棒」
弱々しく胸に拳を当てる中也に、太宰さんは優しく微笑んだ。
その言葉に安心したのか、中也は座った体勢のまま寝息を立て始める。
そんなあたしたちに、痛む身体を引きずりながら、スタインベックが近づいて来た。
あたしは太宰さんと中也を背に、臨戦態勢を取る。
けれど、スタインベックからは戦意の欠片も感じられず。
太宰さんはポケットに手を入れて立ち上がり、あたしの前に出た。
「信じられない……あのラヴクラフトが……君たちは一体――」
「悪い奴の敵さ」
そう答えた太宰の瞳は自信に満ち溢れていた。
負けを悟ったのか、スタインベックは林の向こうへと去って行く。
その小柄な後ろ姿を見送り、太宰さんは「さて」と手を打った。
「私たちも帰ろっか」
「ん」
スタインベックが去って行った方向とは別の方向から、あたしたちは山を下りる。
「あ~、疲れた。身体もボロボロだし。詞織、お風呂沸かすから、背中流して」
「イヤ」
「何で?」
「太宰さんが嘘吐いてたから」
「腕のこと?」
「そう」
「ケガは本当だよ?」
「でも、骨は折れてなかった」
そこで、あたしは首を捻った。
何か忘れてる気がする。
「あ、中也とQを置いて来ちゃった」
「あぁ、放っておいていいよ」
「でも、拠点まで送るって……」
「『任せて』、とは言ったけど、『送り届ける』とは言ってない」
「そうだけど……ま、いっか」
どうせ、中也が相手だし。
「後で広津さんにでも連絡しておくよ」
「ほんとに?」
「覚えてたらね。それより、お風呂……」
「今日は1人で入る」
結局お風呂は、何だかんだで、太宰さんと2人で入ることになった。