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血染櫻【文豪ストレイドッグス】

第29章 マフィアからの特使


「いつからつき合ってたんだい?」

「太宰さんがマフィアから脱出した日……だったかな?」

 ニヤニヤと笑う与謝野先生に尋ねられるも、いつだったか思い出せず、疑問形で返してしまった。

「アタシに聞いて分かるわけないじゃないかい」

 それもそうだ。

「ふぅん、それにしても、また面倒クサイのを選んだモンだね」

「メンドー? そう……かな? うん……そう、かも」

 侮辱された、とは別に感じない。
 太宰さんの性格に難ありなのは分かってるし。

「でも、太宰さんのことが好きだから、メンドーでもいい」

 ただ、太宰さんの傍にいられるなら、何でもいい。

「で、太宰のどこが好きなんだい?」

「どこ?」

 与謝野先生の質問に、あたしの頭は回らなかった。

 どこが好きなんだろう?
 顔? 性格?
 そのどちらも違う気がした。

 頭を悩ませるあたしに、与謝野先生は怪訝な顔をする。

 傍にいて当然で、傍にいたいと思う。
 あたしが太宰さんを好きなのは間違いなくて。
 でも、どこが好きだと聞かれると、答えに困ってしまう。

「――詞織さぁ」

 あたしを呼んだのは乱歩さんだった。
 あたしたちの話を聞いていたらしい乱歩さんが、細い目を開いてあたしを見る。

「太宰のこと、本当に『恋愛的な意味』で好きなの?」

 その問いは、あたしの中の核心をついていた。

* * *

 太宰さんたちが旧晩香堂を出て数時間が経った。
 黒板を背にして乱歩さんが教壇を机に座っており、その両側面にあたしと与謝野先生が座っている。

 与謝野先生はコーヒーを飲みながら新聞を読み、あたしはチョコレートを摘んでいた。
 社長は、教壇の脇に作られた即席の和室に正座し、教本を読みながら一人で囲碁を打っている。
 賢治はそんなあたしたちの後ろで資材を整理していた。

 時間の流れは緩やかで、戦争をしていることすら忘れさせる。
 そんな中で、あたしは先ほどの乱歩さんの問いの答えをずっと探していた。
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