第28章 少女の心が震える理由
『守勢』福沢、乱歩、与謝野、賢治、詞織
『攻勢(甲)』国木田、谷崎
『攻勢(乙)』太宰、敦
* * *
太宰さんが立てた、探偵社がこの戦争で生き残るための作戦。
誰も意見を唱えることなく、これが最初の作戦で、最善の作戦だと思っていた。
けれど、たった1人だけ、この作戦に異議を唱えた。
「納得できない!」
紅い目を吊り上げて、詞織さんは机を叩く。
その『納得できない』理由は――……。
「どうしてあたしが居残りなの!? どうして太宰さんと一緒じゃないの!?」
そんなのおかしい!
そう意見する詞織さんに、僕は脱力する。
いや、君の言い分の方がおかしいから。
そんなことを思っていると、詞織さんは白く細い指を僕に突きつける。
「敦よりあたしの方が戦えるよ! あたし、一生懸命戦うから!!」
僕が何も言えずにいると、太宰さんは大きくため息を吐いた。
それに対して、詞織さんは少しだけ肩を震わせる。
「詞織。拠点に残るのは、敦君じゃなくて君だ」
「どうして!? 太宰さんはあたしより、敦の方が強いって思ってるの!?」
詞織さんはそう言うが、そもそも論点からおかしい。
強いか強くないかで言えば、僕よりも詞織さんの方が強いはず。
それでも同行者として僕を選んだとするならば、それは何かしらの意図があってのことだ。
少し周囲を伺えば、頭痛がするのか、国木田さんがこめかみを押さえて顔を歪めていた。
その隣にいる谷崎さんは、どこか遠い目をしている。
「……詞織」
まだ言い募ろうとする彼女を遮って、太宰さんは名前を呼んだ。
「私が守勢に君を指命したのは、君が残ることが適任だと判断したからだ。君の『血染櫻』は攻守万能で、近距離・中距離・遠距離からの攻撃と防御もできて、なおかつ索敵もこなせる。君以上の適任者はいない」
いつものおちゃらけた雰囲気はなく、真剣な瞳が詞織さんを見る。
彼女自身も、今の太宰さんの言葉を理解できただろう。
悔しそうに唇を震わせた。