第27章 青年の独占欲
詞織がドアを閉め、その足音が遠ざかる。
それを確認して、姐さんは嘲笑を浮かべた。
「随分早かったのぅ」
「詞織の身体には、まだ発信器が残っているからね」
私の答えに、姐さんは怪訝な顔をする。
「詞織の身体には発信器なぞ残っておらぬはずじゃ。残っておったなら、マフィアが追えぬはずは……」
そこまで言葉にして、姐さんは気づいたようだ。
「そう。正確には仕掛け直したのさ。マフィアが仕掛けていた物とは違う発信器をね」
そう言って、私はポケットから受信機を見せた。
「他にもこういう機能がついている」
スイッチを入れると、小さな機械にノイズが走る。
『――ガッ、ガガッ……ぁ、太宰さん、怒ってるかな? あ、敦と谷崎』
『やぁ、詞織ちゃん。何か怒られるようなことでもしたの?』
『あたしが太宰さんを怒らせるようなことをすると思ってるの? ちょっと姐さまのところに話に行っただけだもん』
『姐さまって、今、医務室のベッドで寝てる女の人?』
『元マフィアって話、本当だったんですね』
『太宰さんはこんなウソ吐かない。でも、昔の話。今は探偵社の人間。悪いことはしない。そう――約束した』
私はそこでスイッチを切った。
「探偵社は其方(そち)らの前職を知っておったか」
「最近話したんだよ。探偵社とマフィア、組合の三巴の戦いが始まれば隠してはおけないし、きっと、私の肩書きが必要になることもあるかもしれない」
いや、絶対に必要になるだろう。
すでに頭の中で組み立てた作戦の中には、マフィアとの共闘もある。
できれば一番避けたい作戦ではあるけれど、必ずそこに落ち着くだろう。
今から考えてもため息しか出ない。
「盗聴器に発信器……詞織は知らぬのだろうな」
「教える必要もないからね」
身を翻してドアに手を掛けた私を、彼女は呼び止めた。
「詞織の其方への感情は崇拝じゃ。恋愛感情とは似ても似つかん」
「知ってるさ」
もちろん、私がそれをねじ曲げて『恋愛感情』と錯覚させていることも。
最初から全部分かっている。
しかし、だから何だ、という話だ。
私はそれ以上何を言うこともなく、部屋から出た。
* * *