第22章 赤毛の少女と追いかけっこ
「良いことを教えよう」
そう言う彼の瞳は、こんな異常な状況下においても冷静だった。
最初の気弱さも、微塵も感じられない。
「ゲーム理論研究では、危害を加えてきた敵には、徹底反撃を行うのが論理最適解とされている。二度と反撃されないよう、ここで徹底的に叩くんだ」
「でも、方法が……」
「絶対に敗けないと高を括る敵ほど容易い相手はいないよ」
そもそも、と男性は続ける。
「あの部屋にいる彼らは、君が捕らわれたとき、必死に助けたという話ではなかったかね?」
彼の言葉で、僕の目は完全に覚めた。
僕は……何をしていたんだろう。
そうだ。
谷崎さんたちは、マフィアに捕まった僕を、必死に探してくれたんだ。
詞織さんも、僕のために太宰さんと動いてくれていた。
僕は立ち上がり、赤毛の少女と向き合った。
そうだ……みんなは僕を――……なら、今回は――……。
僕たちを待ってくれていたらしい彼女は、「お話は終わり?」と聞いてきた。
「やる気は戻ったかしら? そうでなくちゃ、面白くないわ」
でも、終わりよ。
少女がそう言うのと同時に、床からアンと呼ばれていた人形が現れる。
ガシッと僕を捕えようとした手から、僕は跳躍して避けた。
そこへ、巨大な影が僕を覆う。
上を見れば、そこにも人形が。
「もう1体⁉」
後ろへ方向転換しようとして、そこにも同じ人形が待ち構える。
3体目⁉
「そちらは3人なのだから当然でしょ?」
逃げ場を失くした僕を、大きな人形の手が捕える。
「しまっ……」
谷崎さんたちのときと同じように、開かれた扉から無数の腕が伸びた。