第16章 少女の一番
「では、恋人か?」
吾妻さんが低く尋ねると、太宰さんは「それはどうだろう?」と否定しなかった。
やがて太宰さんは腕の中にいる詞織さんを優しく撫で、彼女は気持ち良さそうに目を細める。
そして、彼は詞織さんの頬に口づけた。
軽いリップ音が響き、詞織さんは紅い瞳を丸くして彼を見る。
「何にせよ、詞織の一番は私だ。潔く諦め給え」
勝ち誇ったような太宰さんの笑み。
けれど、その瞳に冷酷な光が宿っていたことを、僕は知らない。
当の本人は太宰さんの言葉を肯定するように、彼の首にきつく腕を回した。