第1章 序章 【舞風】
威勢のいい呼び子の声が幾重にも重なり、美味しそうな匂いが充満し、綺麗な硝子細工が輝く通りを歩く。
近いうちに会う予定の同僚に何か買って行こうか、と暫し逡巡して、丁度目に入った簪屋に決める。
「すいませーん」
店の主と思しき人物に声をかけて、尋ねる。
「赤い簪とかありますか? あ、あと、この簪ください」
同僚の好みの色を思い出しつつ、自分の分もちゃっかり選んで。
ほぼ使い道のない給料で、同僚と自分の簪(恐らく使う日は来ない)を買った。
「お嬢さん、この村には仕事か? そんなに若いのに、大変だな」
「そうでもないですよ? 好きでやってる仕事ですから」
「好きでやってる仕事、か? なら長続きするだろうな」