第1章 序章 【舞風】
ざぁっ、と。
かなり強い風が、わたしの髪をいたずらに弄んで去って行く。
必死で頭を庇ったが、その努力も虚しく、髪がボサボサになってしまった。
折角の休みなんだから、少しは綺麗にしておきたかったのに。
「……もう。最悪」
愚痴をこぼして、髪紐で緋い髪をまとめ上げる。
____今の時期は、新しい命が芽吹く季節。
沢山の山菜が採れ、可愛い桜や梅が咲く季節。
本来なら、この村の人々と共に諸手を挙げて歓迎するべきなのだろうが、私にとってはなんの意味もない。
季節どころか、まだ日の昇らぬ朝早くや、夜、月すらも沈み始めようが、仕事をしなければならないのだから仕方が無い。
花見だなんだと騒ぐ暇はどこにもないのだ。
今日だって、やっと貰えた一日限りの休暇なのだから、ゆっくり休みたい。
だが、多くの屋台が立ち並び、女の子向けの小物や簪が売り出される春祭りとなれば、わたしだって年頃の女の子だ。
可愛いものは好きだし気になるし、職業柄あまり休めないとはいえ、やっぱりおしゃれは楽しみたい、というのが本音。
ならば、少しでもいいから見て楽しもう、と、あのバカな相棒を置いてきた。
よし、楽しんでやる。
と、拳を握り、財布片手に、わたしは村の大通りへと急いだ。