第1章 からっぽの部屋
私の恋人である彼はとても恥ずかしがり屋な人で、なかなか愛をささやいてはくれませんでした。
「私のこと好き?」なんていうのは聞かなくても分かっていたから、満足していたけれど。
彼はとても努力家で、いつも何処かに傷を作っていました。
右手の中指のペンだこ。
左手の人差し指の火傷のあと。
左足のすりきず。
その全部が愛しくてたまりませんでした。
「どうしたの?」と尋ねれば、「どうでもいいだろ」と素っ気なく言い放ち、勝手に動揺してはまた新たに傷を作る彼は少し照れ屋でもありました。
その傷は全て私のために頑張ってくれて出来たものだっていうのも全部知っていたけれど。