第10章 審判
肋骨を二本と、右手首が折れていた
身体中赤黒いアザだらけで
目は試合終了直後のボクサーの様に腫れ上がって
事件の前後の事は、本当に記憶を失くしている部分と
記憶を失くしたフリをしている部分とがあった
解離性障害と診断された
怪我が治るまで入院を余儀なくされ
その間はカウンセリングだのナントカ療法だのといってやりたくもない事をやらされて
うんざりした毎日を送っていた
自分を智だと言う俺に
父さんは明らかに困惑した表情を見せ
母さんは心療内科にかかりながらも
嘘のように優しく接してくれた
感情に蓋をして
俺さえ真実を話さなければ
智のフリさえしていれば
全てが上手く行くと思っていたんだ
退院して久々に帰った我が家では
俺の部屋は物置きになっていて鍵がかけられ
画材やイーゼルがそのままの兄さんの部屋を
自分の部屋として使った
兄弟がいた証は何一つ残っていない
大野家には最初から
智という名の息子だけしかいなかったかの様に
俺はその部屋で2年半の月日を過ごした
学校にも行かず
下手な絵ばかりを描いて
後遺症の残った右手のおかげで
左利きの俺でもそこはなんとか誤魔化せていた
ただ
何度挑戦しても
兄さんと同じあの空の青の色は
作り出すことができなかったんだ