第9章 戦車
運命共同体にでもなったつもりでいたのかもしれない
他の誰が何を言っても
俺だけはカズくんの味方でいてあげたいと思った
「兄さんにとって最後の晩餐なんだよ、まーくんの実家の料理はさ…
俺にとっても兄さんとの最後の思い出の場所なんだ…
あそこに行ったら何か思い出せるかな、って…今までも何度か足を運んだ…
でも中にまでは入れなくて…」
「そっか…
それであの日店の前に居たんだね」
「兄さんとの最後の思い出を汚してしまいそうで…
俺、心も身体も真っ黒になっちゃったでしょ、だから…」
「カズくんは汚れてなんかないよ」
だって、あの日会った瞬間
本当に雷に打たれたような衝撃だったんだ
「汚れてなんかない」
君がさしていた透明なビニール傘が
俺には天使の羽根に見えたんだから
「カズくんは綺麗だよ」
どうしたら伝わるかな
「ほら、やっぱり綺麗だ」
カズくんの頬を両手で包んでこちらに向けると
真っ直ぐに見つめるブラウンの瞳が潤んで
そこには俺だけが写っている
「まーくん…」
吸い寄せられるように唇を重ねて
「……んっ…」
薄く開いたその隙間から舌を挿し込んだ
カズくんとの初めての深いキスは溶けるように熱くて
そこから感じ取った“哀”は
泣きたくなる程に“愛”を欲していた