• テキストサイズ

デリバリー【気象系BL】

第1章 吊るされた男







「お兄。
さっきから手、止まってる」

「…へ?」




『営業開始は11時からですよ』

後ろから声をかけた俺に振り向いて
小さく会釈をしたその子は
その場から動けないでいる俺を他所に歩き去って行ってしまった

『11時…! 11時に開店しますから…!』

それだけ言うのが精一杯で
暫く放心状態で




「餡、はみ出てるけど?」

「…あっ、ごめん」

「どーしたんだよ、お兄
なんかあった?」

「いや…」


手の中の餃子は初めて作った時の様に不格好で
手伝いに来たはずなのにこんなのお店に出せるわけもなくて


「ねぇ、母ちゃん。
餃子、自分ち用に貰ってってもいい?」

「いいわよ。
好きなだけ持って行きなさい」

「――― ありがと。」

「杏仁豆腐も持って行きなよ
タッパーいっぱいに作ってあげる」


祐介の作る杏仁豆腐はクコの実の代わりにカットフルーツが乗せてあって見た目も可愛くて
若い女性に人気らしい


「サンキュー。祐介」

「おう」


作った餃子を冷凍庫に閉まうと
厨房を出て入り口のドアの“準備中”の札をひっくり返した


「雨、止んだんだ」


朝から降り続いていた雨はいつの間にか止んでいて
店先に咲いてる紫陽花の花の雨粒が
雲の切れ間から射し込む太陽の光に反射して
キラキラと輝いていた
/ 158ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp