第8章 死神
「今夜は珍しく涼しいね」
賑やかな表通りを避けて
裏通りを二人で並んで歩く
「次、会った時にゆっくり話そうと思ったんだけど…
やっぱり今、話してもいいかな」
「何?」
「キスしなかった理由。
俺ね、想いが通じ合ってないと嫌なんだ」
それって
それってさ、
「売り専だから…?
そーゆー仕事してるから、相葉さんの事客としか見てない、って…?」
「そうじゃなくて、」
「ムカつく」
「えっ…」
「ムカつくよ!
勝手に決めつけないでよ!
確かにあの時はあんな言い方しちゃったけど、でも…!
こないだだって今日だって、相葉さんに会えるの嬉しかったし…!
名前呼ばれるのも、触れられるのも
嬉しいって思うし…!
それって、好き、なのか自分じゃわかんないけど
でも
他のお客さんに対してとは気持ちが全然違うって事くらいはわかるし…!」
何言ってんだ
どうしちゃったんだよ、俺
「カズくん、」
「誰とでもそういう事できるし
そういう商売してるけど、でも…!」
上手く言えないのに
止められない
「封筒、バカみたいに二枚とも取っておいたり
アンタの名前、指でなぞって口に出してみたり
なんで、って自分でも思うのに…!」
「もういいから」
気付いたら
相葉さん腕の中に居て
抱きしめられてるんだってわかって
少しは伝わったのかなって思ったら急に泣けてきて
「…嬉しい。凄く」
その言葉に安堵して
相葉さんの肩口に顔をうずめると
同じ様に、背中にそっと…腕を回した