第7章 月
『詳しいことは分からないんだけど
和也くんが中1の時、お兄さんの智さんが事故で亡くなって…その場に和也くんも居たらしくて。
和也くんも暫く入院してたらしいんです
その後中学には一度も来てないって、』
『学校からも本人からも何も説明がないままで
同級生の間では印刷ミスだろ、って話になったんだけど
違ってたんですよ』
中学を卒業したカズくんは
通信制の高校に入学していた
6年くらい前、風間の幼馴染が
一度だけ鮨屋で偶然カズくんに会ったことがあるという
“大野”
そう声をかけようとした時
一緒に居た母親らしき人がカズくんに話しかけた
“智は何にする?
好きな物頼んでいいのよ”
次男のカズくんに対して
亡くなった長男の名前で呼ぶ母親と
“じゃあお任せで”
それを当たり前のように受け入れているカズくんに酷く違和感を持ったけど
結局、彼はその光景を見ていただけで
声をかける事なく背中を向けたそうだ
『後でわかった事なんですけど
母親は智さんが亡くなった後からずっと
和也くんの事を“智”って呼んでたみたいなんです
なんか、精神やられちゃったらしくて…
和也くんの事を智さんだと思い込んでるみたいで、』