第4章 魔術師
『ねぇ、中学生二人で入ってホントに平気?
補導されない?』
『大丈夫だってば。
ビビリだなぁ、カズは』
『びっ、ビビってないし!』
ランチをしようと連れて来られたのは
当時まだ子供だった俺達には敷居が高いはずの中華料理屋さんで
『ファミレスとかでよかったのに』
『今日は特別。
カズだってたまには餃子食べたいでしょ?』
フォークとナイフの出番が多い我が家の食卓には、中華料理が並ぶ事なんて殆どなくて
『なんでも好きなもの頼みな?』
身長は変わらないのに、こんな時ばっかりお兄さんぶるんだから…
『じゃあ…この鶏のヤツと、麻婆豆腐と餃子』
『あと卵スープとエビチリもください』
店員さんに注文を告げているとお店のドアが開いて
空調の効いた店内にもわっとした外気が吹き込んだ
『いらっしゃいま…』
『ただいま! 腹減ったぁ〜』
『もう! 店の方から入ってきちゃ駄目だっていつも言ってるでしょ!』
そこにはTシャツにハーパン姿で、エナメルバッグを肩から掛けた背の高い男の子が立っていて。
きっとここの店の子なんだろう
こっちをチラッと見ると
『いらっしゃい!』
怒られている筈のその子はそんな事はもろともせずに
俺達に向けて天使のように笑ったんだ