第4章 魔術師
『仕方ないな
いいよ。付き合ってあげる』
俺は兄さんには甘いんだ
『ホントにっ?!
ありがとう、カズ! 帰りに美味しいもの奢ってあげるからね!』
兄さんも、俺には甘かった
心を許せる唯一無二の家族だったから
俺は俺で
兄さんが居たから
息の詰まるような家庭の中でもなんとか呼吸をする事が出来ていたんだ
黄色い電車に揺られて
俺達は目的の場所へと向かった
二人で電車に乗るのは初めてだった
『その画家の人さ、結構なおじいちゃんなんだよ
何処かの会社のお偉いさんだったらしいんだけどさ
ある日突然“俺は画家になる”って言って
会社を辞めたんだって』
約束された未来を捨ててまでも
画家になる夢を選んだその人の絵は
繊細なタッチと色使いが、兄さんのものとよく似ていた
『早く大人になって偉くならないとね…』
その言葉の真意はどこにあるのか
今となってはわからないけど…
鳥籠の中の青い鳥の絵を
兄さんはじっと見つめていた
この鳥はいつかそこを抜け出して
美しい羽根を広げて大空へ羽ばたくのだろうか
それとも
ただ、空が恋しいと
鳴くばかりなのだろうか