第3章 力
「ごめんね、本当に申し訳ないんだけど…
あの時カズくんの事、女の子だって勝手に勘違いして一目惚れして…
店に来るかなって一日中待ってたけど、来なくて…」
この続きをカズくんに話してもいいものだろうか
「落ち込んでる俺に、こういう時はどうしたらいいのか友達に聞いたんだ
そしたら、その…そういう店で肌を重ねたら忘れる、って言われて。
それでね、同僚に教えてもらったホームページを見たら…カズくんを見つけて、」
「そっか…
じゃあ俺が男だってわかって更に落ち込ませちゃったね」
「最初は…!
そりゃ、ちょっとショックだったけど…でも、
もう一度会いたいって思ったんだ
カズくんと話してみたい、って」
真っ直ぐに見つめれば
真っ直ぐに返してくれる
「また会えて良かった。
今、凄く楽しいし!」
へへっ、って笑ったら
困ったようにカズくんも微笑った
「あっ」
「うん?」
ズボンのポケットから取り出したカズくんのスマホがブルブル振動してる
「電話?」
「いや…アラーム。10分前の」
チラッと時計を確認する
ホントだ…もう50分も経ったんだ
「相葉さん」
「へっ?!」
「今日はありがとうございました。
仕事でこんな風に相手とファミレスで話するだけ、なんてそうそう無くて
新鮮で楽しかった」
仕事…
そうだよね、仕事なんだよね
楽しくて
嬉しくて
カズくんが所謂“そういう仕事”をしてる子で
俺は客なんだ、って事をすっかり忘れていた