第1章 吊るされた男
―― Pu ru ru ru ru ♪
「もしもし、風間? お疲れ
うん、そう。雅紀も一緒
おっ。マジで?助かるわー」
電話の相手は俺のもう一人の親友
てか、頼れる後輩で
昔からよく三人でつるんでいた
「悪いな。じゃあ、よろしく」
頬に冷たいモノが当たる
グラスだろうか
ヒンヤリとしたそれが心地良い
…気持ちいいな
「雅紀? まーさき。
風間が車で迎えに来てくれるってさ」
「んー…」
「飲み過ぎだから。
ほら、水飲みな」
「ありがと、しょーちゃん…」
彼女と付き合う事になった時
そう言えば翔ちゃんは何も言わなかった
風間は珍しく反対してたけど
「二人はさ、わかってたの…?」
「何が?」
「…こうなる事、」
水の入ったグラスをギュッと握りしめる
「後悔してんの?」
「…わかんない。」
わかんないよそんなの。
「雅紀のこの一ヶ月は無駄じゃなかったと
俺は思うけどね」
俺だってそう思いたいよ
ホントは分かってた
彼女の心が俺にない事くらい
「何事も経験だよ」
「…失恋も?」
「失恋も」
翔ちゃんがそう言うと
ホントにそんな気がしてくるから不思議だ