第14章 皇帝
「片付いたよ」
ソファーに座り、だだ一点を見つめている母さんは感情の無い人形の様で
まるで精気を感じない
「母さん、」
届いているのか、いないのか
俺の声に反応する事もない
兄さんのフリをしたのは
自分への戒めでも
母さんへの懺悔の為でもなかった
ズルい俺は
兄さんに成り代わる事で
母さんからの愛情を一身に受けられると
そう思って
子供の頃
兄さんの真似をすると、母さんは手を叩いて喜んだ
俺にも笑顔を向けてくれた
だから、
「…帰るね」
もうこんな茶番劇は終わりだ
自分で始めた事だから、俺が終演の幕を引くよ
「…今まで、ごめっ……」
ごめんの一言で済まされない事は分かってる
それでも謝らなきゃって思った
なのに
なに泣いてんだ
泣きたいのは母さんの方だろ
俺に出来る償いがあるとするならば
「…もうっ……此処へは来ないから……」
二度と貴女に会わない事くらい
それと、
「兄さんは… 智は、生きてるよ」
貴女に希望を持ってもらうことくらい
兄さんが生きているとわかれば
貴女も、
「…………和也、」
どうして
「……和…………」
どうして俺に手を伸ばしてくれるの
どうして、
“俺”が母さんに抱きしめられたのは何年ぶりかな
「……ごめんね、和…」
いいんだよ
もういいんだ
ねぇ、母さん
俺達親子はどこで間違えたのかな