第35章 神原秋人から告げられたその言葉は……
「それにしても、急に倒れたもんだから驚いたよ? 一体何があったの?」
「……べつに何も」
私は神原秋人から目を逸らし、呟いた。
「……昨日、博臣にも何か言われたの?」
「……どうしてそう思うの?」
「春野さんの様子がいつもと違う時は大体、博臣が関係しているから、そうなんじゃないかって、思ったんだよ」
(神原秋人はよく、私のことを見ているんだなぁ……)
「よく、私のことを見てるんだね……」
私はそう言いながら神原秋人のほうに目を向けた。
「まぁ、毎日見てたからね……」
(ま、毎日……⁈)
「けど、毎日キミを見ていた最初の理由はただ、『春野さんに一番似合う眼鏡ってなんだろうなぁ……』って、考えて見てただけ、だったんだけど……」
「…………」
「けど、キミをそうやって毎日見てるうちにちょっとした変化に気づくようになっちゃって……今となっては良かったのかなって、そう思ってるけど……」
「……どうして?」
そう尋ねると神原秋人は優しい笑みを私に向け、言う。
「だって、そのお陰で春野さんを一人で泣かせずにすんだから……」
「……!」
「キミが泣いてる時に傍にいてあげることができたから……僕は良かったって思ってるんだ」
「…………」
「キミが階段から落ちて保健室に運んだ日も、下駄箱の前で会ったあの日も、春野さんは泣いていたり泣きそうになっていた。 その時にキミを一人で泣かせずにすんだことに僕はホッとしたんだ」
「神原秋人……」
「女の子が一人で泣くのは良くない気がして、さ……僕はあまり好きじゃないんだ……女の子が一人で泣いてるのを見るのは。 だから……良かったって、思う……」
神原秋人はそう言って、少し苦笑して頬を掻いた。