第30章 二人の頭に過ったのは……
昨日。
美月の兄、博臣が華菜の家から帰ってきてすぐのことだった。
「ただいま、美月」
「兄貴? こんな時間まで何やってたのよ?」
「華菜の家にいた」
「そんなことは知ってるわよ。 私が聞いてるのはこんな遅くまで華菜さんの家で何をしてたのよってことよ‼︎」
美月が怒るのもわかる。何故なら外はすっかり暗くなり、夜遅い時間だったのだから。
「そんなに怒るな、美月。 美月が考えてるようなことは一切ないからな。 ちゃんと送り届けたし……」
「何よその言い方は。 それじゃまるで私が兄貴を心配して怒ってるみたいじゃないのっ‼︎」
「……心配して怒ってたんじゃなかったのか?」
「誰が変態兄貴のことなんて心配するもんですか‼︎ 私が心配してたのは兄貴とこんな時間まで一緒にいた華菜さんのほうよっ‼︎」
美月はそう吐き捨てたあと部屋に戻ろうとした。が、そんな美月を博臣は呼び止める。
「なぁ、美月」
美月は博臣に名前を呼ばれ足を止めた。そうやって足を止めた美月を確認した博臣は、言った。
「俺、華菜と付き合うことになったんだ」
博臣がそう口にした言葉を耳にし、美月は一瞬驚きを隠せずにいたのだが、すぐさま平然を装う。
「……そう。 それで、どうして私にそれを教えるのよ? 私には兄貴と華菜さんがどうなろうと関係ないことなのに……」
そして美月はそのあとに兄に聞こえない声で『 ……あの子はどうしてこんな変態兄貴と付き合うことをOKしたのよ……』と、美月はそう呟きその場を立ち去ったのだった。