第29章 不安なんです。
「……本当に何もないのか?」
「はい! だから、大丈夫ですよ?」
(けど、なんだか……ん?)
顔を上げ笑った華菜の目元を見てみるとそこには微かに涙のあとが残っているのに気づく。
「華菜……泣いてたの、か?」
俺がそう声をかけると華菜はビクッと肩を揺らし慌てて首を振りまた笑った。
「泣いてなんてないですよ? 気のせいじゃないですか?」
「けど、涙のあとがあるし、それに目だって赤くなってるじゃないか」
俺が言ったことに「泣いてないですからっ!」と言い続ける華菜に俺は何も言えなくなり、その代わりに彼女の身体を引き寄せ抱きしめる。
「ひ、博臣先輩っ⁉︎」
「悪い……だが、華菜が本当のことを話してくれないからこうするしかないんだ……」
「……どういうことですか?」
「こうすれば華菜の心の中で思ってることが伝わるんじゃないかって思ってな」
俺はそう言って更にギュッと抱きしめる。
「……そんなの……伝わるわけ、ないじゃないですか……」
「…………」
「伝わるわけない……」
「そうだな……」
「……離して下さい……」
「……ダメだ」
「…………」
「伝わらないから、ちゃんと話してほしいんだ」
「話しても伝わらないこともあります」
「それは話してみてからじゃなきゃわからないことだ」
「話しても解決なんてしないです」
「それも話してからじゃなきゃわからないことだろ?」
「…………」
「だから話してくれ。 華菜はどうして泣いていたんだ?」
俺がそう問うと華菜はボソッと呟く。
「……不安なんです」
「不安? 何が不安なんだ?」
「嫌われるんじゃないかって……」
(嫌われる……?)
「誰に?」と聞かなくても答えはなんとなくわかる。 華菜がそう思っている相手はきっと……
「俺に、か?」
俺がそう声に出すと華菜はコクリと頷いた。