第29章 不安なんです。
「違うのよ……」
美月は辛そうな声でそう呟いた。
「美月……?」
俺はいつもと様子が違う美月に戸惑っていた。
「私が彼女にそう言ったのは……彼女のためじゃないのよ……」
「なら、誰のために……」
俺がそう聞くと美月はゆっくりと唇を動かし言った。
「私自身のため、よ……」
美月のその言葉を聞き俺の頭は混乱してしまった。
(どういうことなんだ……何で美月が自分のためにそんなことを……?)
「ごめんね、兄貴……私、兄貴のことを……なの…… 」
「⁉︎」
美月のその言葉は俺の頭を真っ白にさせるのに十分なものだった。
「美月……お前は自分が何を言ったかわかってるのか……?」
「わかってるわよ。 わかってる……兄貴を困らせることなんだってことも……私自身、どうしてこんなことを言ったのか……自分でもわからないけど……」
「……美月……」
「けど、嫌だって思ったのよ……彼女が、兄貴の傍にいるのが……」
「……だが、お前は俺のことを嫌っていたじゃないか。 なのに今更……」
「そうね……。 確かに私は変態兄貴のことを嫌っているわ……」
「なら、何で……⁉︎」
俺がそう問うと美月は悲しげな表情を見せたあと、呟くように言った。
「けれど、彼女が兄貴の部屋で眠ってるのを見たら……耐えられなかったのよ……」
「美月……」
「ごめんね、兄貴……」
美月は最後にそう言い残し俺の部屋を出て行った。