第182章 〜後日談〜lost property〜
三月、卒業式当日。
「卒業証書授与」
パイプ椅子に座った保護者。
その前方に俺ら生徒は座る。
雑談もなく静かに姿勢を正して、前を向いていた。体育館の中にはパイプ椅子が軋む音、涙を堪えるようにズズッと鼻をすする音がやたらと響く。
俺の隣に座ったひまりは、卒業証書貰う前から涙腺崩壊。
卒業生代表の挨拶を、しれっとした態度で淡々と述べる家康とは大違いだった。
式、終了後。
クラス写真撮影。
後は、個人的に友人同士で声を掛け合い、写真撮影を始める中……
家康が昇降口に、フラフラ歩いて行くのを目撃した俺は後をつける。
「何やってんだ?」
落し物箱に何かを入れるのが……
一瞬、微かに見えた。
「……まだ、卒業出来そうにないから。ここに置いてく」
珍しく染みついた顔すっから、
背後から近づいて、肩を組んだ。
「何、意味わかんねーこと言ってんだよ。それより、俺らも記念に写真撮ろーぜ!」
ひまりがまだ泣きじゃくってると言えば、家康は軽く息を吐く。
「……幸村。何で、ひまりに第二ボタン渡したわけ?」
「あ?記念だ、記念!ほら、行くぞ!」
別にせがまれた訳でもねー。ただ、何となくアイツに持っていて欲しかったとは……言いにくい。
あの文化祭から育ちはじめ、いつの間にか深まっていたひまりへの想いの……答え。
Love lost(落し物の恋)
そう、
ロミオ気取りで、名付けた。
「っとに。泣きすぎ」
「うさぎみてー。真っ赤」
「だって……ぇ…」
俺と家康の第二ボタンを握りしめ、
ひまりはグズグズ鼻を吸い込む。
やっと泣き止み。
「ほら、撮るよーっ!」
写真撮影。
ひまりは両サイドに立つ、
俺らの腕に自分の腕を絡ませ、
真っ赤な目をしたまま笑う。
シャッターを切る直前。
家康と目で合図を送り……
こっそりひまりの頭の上に、
うさぎの耳みてーに、手を添えた。