第182章 〜後日談〜lost property〜
簡単な演目が流れた後、幕が上がる。
舞台上はライトアップされ、華やかな仮面舞踏会がはじまった。
バルコニーのシーンに入ると、観客席が静まり返る。
ひまりの名台詞が入り、舞台後ろに浮かぶ月。暫く見つめ合い、城の見回りに気づかれそうになり、俺はその場を去っていく。
そしてアドリブが入るシーン。
修道士の協力の元、秘密の結婚式を挙げ愛を誓う……
手作りとは思えねー。
それぐらい凝った作りをしているステンドグラスの前で……
「ロミオ!その名を捨てて……どうか、私の全てを受け入れて……」
俺はひまりの手を取り、跪く。
そして顔を上げ、
「俺はキャピュレット家の仇。モンタギュー家の、一人息子ロミオだ。名を変えることも、捨てることも出来ない」
決して愛し合ってはいけない両家。しかし、惹かれ合い……自分達の運命も宿命も受け入れることが出来ないまま、変わらぬ愛だけは神に誓う。
俺の中では、
まさにそんなイメージが流れた。
観客席からゴクリ息を飲む音。
ひまりは、一瞬思いがけないアドリブに台詞が詰まりかけたが……
「……そうね。……名前なんて関係ない。ロミオはロミオよ。でも、これだけは言わせて。私が愛したのは仇の一人息子ではなく、ロミオ自身」
ひまりらしい、言葉で繋ぐ。
「ジュリエット……神と君に誓うのは……決して誰にも変えられない、変わらない、この愛だけだ」
軽く抱き合った瞬間。
「ふふっ。真っ直ぐなとこが、幸らしいね」
俺の腕の中で、クスリと笑った。
ジュリエットが、
毒を飲み命懸けの大芝居。
ロミオは仮死状態なのを知らず、
後を追うように短剣で自分の胸を指す。
直後に、息を吹き返したジュリエットはロミオの亡骸の上に、大粒の涙を零して……短剣を抜き、自分の胸に突き刺した。
神に決して変えられない、
変わらない愛を、誓いながら。
こうして、悲恋の恋は拍手喝采と共に幕を閉じ……舞台裏に戻った俺たちの耳に、
「全国大会、優勝だってさ!!」
良い知らせが届いた。