第182章 〜後日談〜lost property〜
職員室で、担任と話し合い。
引越し先に近い、春日山高校を受験先を変更。
ひまりにも家康にも、まだ転校のことは誰にも報告してねー。変に気を回されんのも嫌だしな。大会後に報告するつもりで何となく後回しにしていた。
大した理由なんてねー。
そう思っていた。
公園入り口。
見えた二人の姿。
いつも、俺が腰掛けていたブランコに家康が居た。
(先に来てたのかよ)
手を上げ、二人に「よっ!」って、軽い口調で言おうとした瞬間。
ひまりの声が、
「ロミオ!その名を捨てて……私の全てを受け入れて……」
夕暮れの公園に響く。
その声にハッと息を呑み。
俺は足を止め、ただその光景を見る。
ブランコに座ったまま、鎖を掴み顔を家康の方に向け涙が入り混じった、切なげな声で言った台詞。
演技とは思えない程、
何かが込もっていた。
赤い夕陽。
セーラー服と学ラン。
一見、ロミオとジュリエットの名シーンだとは分からねー。
カシャン……
家康は立ち上がり、ひまりの前にスッと移動すると……
「君の愛の真実の誓いが欲しい。……俺の誓いと……引き替えに……」
跪き、手を差し伸べる。
むず痒くなるぐらい、こっぱずかしい台詞。俺が何度も練習して、やっと何とか言えるようになったその台詞を……意図も簡単に吐いた。
二人の視界には入らない俺。
けど、俺の視界には二人が入る。
下手したら薄っすらと目に涙を浮かべてるんじゃねーか?と、思うぐらい……ひまりは、目の前に差し伸べられた手の上に震えた自分の手を添え……
頬を染め、静かに笑った。
それを見た瞬間、胸に突き抜けるような痛みが走り……気づけば俺は二人に声を掛けるのを止め、その場を後にしていた。