第35章 月見ず月(7)
『ますらをと 思へる我や かくばかり
みつれにみつれ 片思をせむ』
(大伴宿禰家持)
ますらを?
みつれにみつれ?
片思いを詠んだ歌なのは分かるけど、それ以外はさっぱり。
恥ずかしくても、ここは正直に答える。
「先生!全然、分かりません」
「……貴様に男心は、伝わらんか」
「「ぷっ」」
家康と政宗が肩を揺らしながら笑うのが見えて、私は頬を膨らませた。
「自覚なし子のひまりには、直球な文出さねえと、通じないか」
「……詠み解くまでに、おばぁちゃんになるかも」
「ひっどい!なら、二人は分かるの?」
「「全然」」
教室に笑い声が響く。
「ならば、貴様らに課題をやる」
織田先生からこの文の詠みを調べてくる課題を出され、家康と政宗の二人は、好意を寄せている女の子に宛てた文を歌集から選び、持ってくる課題を出した。
___休み時間
「えっ!もう出来たの!?」
あっと言う間に、課題を済ませた二人に私は項垂れる。
「まぁ、俺らは選ぶだけだしな」
「自分にピッタリなの、普通にあったし」
(二人共、好きな子がいるから早いのかな?)
どうやら二人は携帯で、調べたみたいで。私がずるい!って怒ると、
「ズルくない。ちゃんと選んだし」
「だな。誰かさんに向けて」
ぷぅ、と膨れてくるっと背中を向けると後ろから二人に頬を突かれる。
「いいもん!ちゃんと昼休みに図書室行って、調べてくるから!」
「でた。真面目子ちゃん」
「まぁ、そこがひまりの良い所だけどね」
完全に拗ねた私は、付き合ってくれると言う二人の申し出を丁重にお断りして、ゆっちゃんの席に向かった。