第34章 月見ず月(6)
何?と聞くと私の方に家康は顔を向ける。まだ、熱があるのか頬が少し上気していて、赤い。
「……まだ、怒ってる?」
「もう、怒ってないよ」
顔色を伺ったような困り顔。
病人の上、そんな顔されて言われたら何にも言えないよ。
「それに……」
私は家康の服の裾を、軽く握る。
「やっぱり、水族館。家康と行きたかったから」
チラッと上を向くと、
「……やられた」
蕩けそうなほど甘い笑顔。
その顔は反則だよ。いつもポーカフェイスなのに、ほんとズルい。
「もう、風邪治った」
「そんな訳ないでしょ。まだ、熱いのに」
「それは、ひまりが夜に……」
バツが悪そうに家康は顔をそらす。
夜に?何?と聞くと、
「ってか、着痩せし過ぎだし」
「着痩せ?さっきから、何の話?」
「柔らかいし、見えそうだったし」
「???」
会話が成り立たない私達。
「ねぇ?そう言えば、ワサビは?」
確か、昨夜は居たはずなんだけど。
「……南国にいるけど」
「なら、夢でも見てたのかな?」
確かに抱っこしたんだけど。
鳴き声もした気が……。
この日、家康は明日に備えて予備校を休み……。
「ばか……」
「ケホッ……うぅ……」
水族館は見事に延期になった。
「ばかは風邪引かないから、ばかじゃ……ケホッ、ケホッ」
「……嘘。移したの俺だし」
ギシッ……。
私のベットが沈む。
「な、なんでっ…ケホッ。乗るのっ」
「……看病してあげようと、思って」
家康の意地悪モードのスイッチが入り、ベットの上で揉めていると……
ガチャ。
部屋のドアが開く。
「あらあら〜。お邪魔だったかしら?」
「ち、ちがっ……ケホッ」
「家康君のご両親、帰ったら日取りはいつか決めないとね」
「……卒業したら。俺はいつでも」
「な、何言って……ケホッケホッ!」
お母さんの冗談に、いつも乗る家康。
だめ。
頭まで、痛くなってきた。
無遅刻無欠席を、目指す私は自力で一日で風邪を治す。
「……ひまりのウェディングドレス姿、楽しみにしてるから」
甘い台詞と握られた手のぬくもり。
私の夢の中での記憶。