第180章 〜後日談〜家康様side〜
コンクリートに映る二つの影。
大事にしたい。
でも、側にいたら触りたくなる。
焦るつもりはないけど……。
本気で嫌がられたら止めるつもり。
何より、
「鞄だけ、置いてこようかな?」
鞄を受け取ろうと、手を伸ばすひまり。
俺はそれを制止して、
腰元に腕を絡ませ引き寄せると……
「……後で送ってあげるから」
耳元でそっと言う。
一秒でも、長くいたいのが一番の本音。二軒挟んだだけの距離。その一、二分の時間さえ離したくない。
「す……ぐ…帰るからね///」
俯く前に一瞬だけ見えた顔。
頬を染めて意識されたら、余計に帰したくなくなる。鈍感なひまりに、そんな男心なんて一生理解出来ないだろうけど。
(そんな反応しても、かわいだけ)
ここは、変に警戒されたくないし……俺は、返事の代わりに頭を撫でて玄関の鍵を開ける。
ガチャ……。
キィー……ィ…。
用心しながら扉を開ける理由は一つ。
「キャンキャンキャーン!!」
つぶらな目を輝かせ、猛突進してくるワサビが予想できたから。
「こら。玄関に下りるなって」
ドアを急いで閉めて鍵をかける。
「わぁ!ワサビ!!……元気そうだね!」
ひまりがワサビを抱っこする前に俺は鞄二つを置き、屈んだ。
(っとに。興奮しすぎ)
尻尾全開にパタパタ振って、小さい足でピョンピョンひまりに飛びつくワサビを捕まえ、顔の高さまで持ち上げる。
(俺まだ、今日キスしてない。先にさせないよ)
目線で忠告するけど、ワサビは完全に無視。ご主人様が目の前にいんのに、まるっきり眼中になし。短い尻尾、人の手にバシバシあてて顔は隣にいるひまりに向けていた。
鼻息もフンフンして、息遣いもはぁはぁして、オスの本能剥き出し。俺の手から脱出しようと、必死に手足を動かして蹴り出す。