第177章 涙色の答案用紙〜あとがき〜
朱色に広がる西空。
目を奪うほど、それは秋の紅葉のように美しいものなのかもしれない。
けど、今の俺はその景色よりも……
視線を捉えて離さないのは……
書物を持ち上げて、
顔を半分隠しながら……
「……だめ?」
遠慮がちに上目遣いで、魅力するお姫様。おねだりするその表情、声、仕草……何もかも釘付けになる。
(わざとじゃないのは、分かってるけど)
この無意識、無自覚に男心を弄ぶ、ひまりに俺の心は終始乱されっぱなし。甘い香りに誘われ、髪に顔を埋めれば……
「……だめじゃない」
堪らず、甘やかしたくなる。
今朝のテレビで小耳に挟んだ程度の占いコーナー。はっきり言って、普段そんなの期待しないし、興味ないけど……
(今日ぐらいは、信じるのも良いかも)
大切な幼馴染から彼氏に昇格?出来たし。
俺の返事を聞いて、書物から顔を離してふわっと笑うひまり。「せーの!で読むからね!」今時、小学生でも言わない。「もう少しマシな掛け声ないの?」そう、毒づく口先とは別に……
(ほんと……。かわい)
心の中はそれ。
相変わらず、天邪鬼。
「他に思いつかないんだもん!」
ひまりは口を尖らせ、くるっと顔を前に向ける。それから、ほんの少しだけ俺に体重を預けた。
「せーの……」
二人同時に軽く息を吸い、声を出す。
そしてひまりのペースに合わせて、読み始め……
「「むかしむかし、
ある戦国武将と姫君は恋に落ちました。
綺麗な花が咲いたある日……
想いを通わせた二人。
如何なる時も、力を合わせ……
争いの絶えない、戦国時代を乗り越えていきます。
そして、
石碑の前で、永遠の愛を誓いました。
巡り合う……運命の愛を……」」
同時に読み終えた。