第177章 涙色の答案用紙〜あとがき〜
家康は、私のほっぺたを摘んで……
「やっぱ、内緒」
甘い声で囁きながら、
顔は意地悪そうにニヤリと笑った瞬間。
「撮りますので、皆さん。こちらを向いて下さい」
佐助くんの声が聞こえて……
文句一つ言えないまま、私はササッと身だしなみを整えた。
「では、スマイルお願いします」
一番、笑顔と無縁そうな無表情の佐助くん。思わず皆んな、自然と笑顔になったのかもしれない。
(どんなポーズとってるのかな?)
顔を一瞬だけぐるりと動かして、
皆んなを見る。
政宗は石碑に背中を預け、横向きの体勢。その隣で被らないように少しズレて、姿勢を正す三成くん。
明智先生は白衣のポケットに両手を入れて、斜め向きに立ち、秀吉先輩は片手を石碑に添えてウィンク。
私の身長ぐらいある石碑の後ろで、織田先生は片腕立てて頬杖をついていた。
(ふふっ)
家康の赤く染まった、文句一つ言えない格好良い横顔を最後に見た後、私は見惚れてしまわないように正面を向く。右手は芝生の上で、繋がってるから……
三つ葉のピンキーリングが見えるように左手を頬に添えて……
「では、1000+59は?」
「「「戦国ーーっ!!」」」
ニッコリ笑った。
その時。
シャランッ……。
ふわっと春のような温かい風が、舞い込む。
パシャ。
シャッターを切る音。
それと、もう一つ何かの音が同時に聞こえた気がした。
「念のため、もう一枚取ります」
佐助くんは一眼レフのカメラを、
覗き込んだ時……
「ひまり。見せてあげるから……」
こっち向いて。
その声に反応して、横を向けば……
家康がスッと顔の近くに文を出すのが、見えて……
「では、今度は普通に……さん、…」
始まる佐助くんのカウントダウン。
「あ!三成くん、ここに居たのね」
「……に…」
駆け寄る足音に気づかないぐらい……
「ひまり」
翡翠色の綺麗な瞳に……
気づいたら、吸い込まれていた。
「きゃっ!!」
「へ!?と、時先輩!?」
いち……。パシャ。
赤い背景の写真が三枚?
まさに神様のイタズラ?
写真を後日見た私の顔は、
きっと夕陽よりも赤いかもしれない。