第177章 涙色の答案用紙〜あとがき〜
皆んなは二つの手紙を読み比べていて、見せ合いっこを始めようとしているのを見て、私は慌てて止めに入る。
「恥ずかしいからだめっ!」
「お前のじゃなくて、もう一人の「ひまり」の方だ」
政宗はヒョイと腕を高く上げた。
私は必死にピョンピョン跳ねて手紙を取ろうとしていると……
スッと横から現れた佐助くん。
「ひまりさん。君には、これを見て欲しい」
渡されたのは、風化した紙切れ。
ちょっとでも力を入れたら大変だと思い、破らないように慎重に扱い、私は広げる。
『時を越える力が現れても、決して愛する人を、自分を見失わないで』
そこに書かれた文字を見て……
佐助くんと織田先生の会話を思い出す。
「これ……もしかして…階段で話をしていた」
「父が唯一、誰にも届けられなかった文。君なら何かわかるかと思ってね。俺の研究では、ひまりさんの心と時を越える力……つまりワームホールが関係していると踏んでいた」
修学旅行の二日目の夜に、現にワームホールは私を追うように出現していたと、聞き驚きで言葉を失う。
赤い橋で起こった不思議な現象。それを家康は織田先生に話し、佐助くんもその話を後から聞いたみたいで……
「……リンク。心の影響と言うより、何らかの状況が類似、波長、繋がりが呼び起こしたと今は思っている」
「なら……もしかしたら、いつかまたワームホールが現れるかもしれ…ないってこと」
不安が押し寄せて、声が震える。すると、佐助くんは今はワームホールの気配は一切ないから心配しなくて良いと、説明してくれた。
ホッと胸を撫で下ろして、もう一度文を読む。
「……書物を読んでからでも良い?確かに私の名前は「ひまり」で、戦国姫に選ばれたかもしれない。でも、前世の記憶なんてこれっぽちも」
ない。
ただの偶然。
だけとは、思わないけど……
でも、私は私で……
キュッと唇を結んで口を閉ざした時。
突然身体が後ろに引かれる。
「不安にさせないでくれる。ひまりはひまりだから」
家康の声が頭上から降りてきた。