第177章 涙色の答案用紙〜あとがき〜
迷ったことも、
辛いこともあったけど、
それがあって今の私がいる。
今朝、先生にだけ手紙を直接渡した。
家康に二通目の手紙を預かって欲しい理由もあったけど、何故か無性に先生に会いたくなったのも理由の一つ。
職員室に入ると、
窓辺にコーヒー片手に佇む後ろ姿。
ーーおはようございます。
私がそっと近づくと。
先生は珍しく驚いたように、凄い勢いで振り向いた。
ーーど、どうかしました?
ーー……今、一瞬。……いや、何でもない。気にするな。
用を聞かれ二通の手紙を渡す。
ーー本当にありがとうございました。
ーーフッ。礼を言うぐらいなら抱かせろ。
ーーえ……?…せ、先生?
私を腕の中に閉じ込めて。
自分を見失うのは、他人を優先してしまう所為だと。それは、良いことでもあるけど……
ーーこれからは、「何をすべきか」悩む前に「どうありたいか」それを第一に考えるようにしろ。……自分に自信を持て。
(あの言葉のお陰で、今朝やっと新しい自分を見つけれた気がする)
家康に笑顔を見て欲しい。
ずっと、そう思うのに上手く笑えなかった。
でも、今は違う。
私は私らしくいたい。
過去の私が、今、新しい自分に笑顔を運んできてくれた気がした。
ピンキーリングを
そっと、指で触れた時。
「ひまり」
柔らかい声で名前を呼ばれて顔を上げれば、少し困り顔をした家康が息を吐いた。
「言っとくけど。俺がひまりを好きになったのは、書物は関係ないから」
私はそれを聞いて、はにかむ。
そんな風に思ってないよ?
そう返事をする前に……。
「そう言いたいが為に、書物を預かっていたのか?」
「何度も言いましたが、預かっていたのは書物を見て、ひまりに変に意識して欲しくなかったからです」
「手にした途端、大口だな」
「前にもそれは、言いましたけど?」
織田先生と家康の言い合い?みたいなのが始まって、二人の間に重い空気が流れる。
でも、
(ちょっとだけ、兄弟喧嘩みたい)
そんな風にも見えて、私はクスリと笑う。そして、一歩後ろに下がり二人の視界に映らないように、こっそり佐助くんや皆んなの方へ移動。