第177章 涙色の答案用紙〜あとがき〜
時は十二年前の春。
四月一日。
八分咲きの桜の大木が、淡い色のはながさのように咲き満ちた中で、迎えた戦国学園入学式。
体育館にて__
「新入生代表の織田信長。この学園で天下を取る男だ。覚えとけ」
俺は長ったらしい答辞は読まず、赤いネクタイをクッと緩め壇上から下りる。ポカーンと間抜けな顔をする、生徒の横を通りドカッ!と、椅子に座った。
入学資料に目を通し、ある写真付きで紹介されたページで手が止まり……
式終了後、俺はその場所に向かう。
戦国時代、桃山時代の境い目頃に設立。
約五百年以上の歴史が続く「戦国学園」
建物自体は何度か改築、増築され、当初の面影など一切ないらしいが、一つだけ取り壊されず時を刻んでいる、石碑があると。
自分の名が、かつての戦国武将。「織田信長」だった所為か、やたらとその時代の歴史に興味を持ち、入学した理由は単に学園の名が気に入った。
それだけだ。
裏庭を抜け、見えた石碑。
その前に立つ一人の男。
年は、三十代手前。研究医のような格好をし、白衣についた土や葉を払うと俺に気づき、振り返る。
「織田信長……だね?」
眼鏡を押し付け、無表情。
俺はただ一言、そうだがと答えれば一通の文と書物を渡してきた。
「何だ、これは?」
「戦国姫が再会を願った文。私はまだ五人を探し出し、届けなければならない。書物は君に預ける」
詳しい説明もなく、中を見ればわかる。
そう言い残し男は姿を消す。