第177章 涙色の答案用紙〜あとがき〜
春の暖かい日。
確か、イチゴを買いに商店街に行ったおつかい。お気に入りの帽子と靴。赤いハートのポシェット肩から下げて、川沿いのあぜ道を歩いていた時。
ーー名は……。
赤いネクタイを付けた……
制服姿の黒髪のお兄ちゃん。
(あの制服は……)
ーー大事にしろ。
(戦国学園の制服)
記憶の引き出しが一気に開いて、ハッと織田先生を見る。
「その顔は思い出したみたいだな。赤いハートの鞄。今も持っているのか?」
先生は揶揄うようにそう言って、家康の手から書物を奪うと……あの時と同じようにただ一言「大事にしろ」そう言って、一歩後ろに下がった。
再び書物を胸に抱く。
「先生は何でこの本を…書物を私に?」
表紙には何も書いてない。
一見ただの古びた本。
確かに、さっき家康が見せてくれたページには、私と同じ名前が書いてあったけど……まだ、中身を見ていない私には謎だらけ。
(それに、まるで先生は名前聞く前から、私を知っていたみたい……)
尋ねてから少しの間が流れ、先生はゆっくりと口を開いた。
「この学園に入学した日。この石碑である男に出逢った」
「それが俺の父だ」佐助くんはそう言って、石碑の下に屈むと静かにある一点を見つめていた。私はその様子を横目で一度チラリと見て、正面に立つ織田先生の言葉に耳を傾ける。
先生は入学式後、学園の案内に書かれていたこの石碑に興味を持ち、立ち寄った時に、佐助くんのお父さんに声を掛けられたみたい。
「新入生代表の挨拶でも聞いたのだろう。織田信長かと目が合った矢先、尋ねられた」
先生は少し歩き石碑に背中を預け、赤いネクタイを緩めるとズボンのポケットに手を入れ……
空を見上げた。
その時を思い出すように。
懐かしそうに目を細め……
「そうだと、答えれば。一通の文と書物を渡された」
その時の出来事を話してくれた。