第176章 涙色の答案用紙〜最終章〜※後編
触れたのは、たった数秒。
止まっていたように、
また動き出す時間。
唇をゆっくり離して。
同時にゆっくり開く瞳。
何色にも染まらない、澄み切った色。
(このまま、吸い込まれるかも……)
目の前にいるひまり。
俺を一瞬で、奪って。
至近距離で甘く絡む視線。
「家康……」
その心地いい声さえ虜にする。
ひまりが呼ぶ自分の名前に、痺れそうになる前に右手にオルゴールを手渡す。
俺はポケットから自分のオルゴール取り出して……
自分の顔の横で裏を向け……
「……こっちも、正解?」
『ひまり』
そこに刻まれた名前。
目の前の瞳が更に大きく開く。
北海道の時に刻んだのは、別の意味でだったけど。いつかの為の。答え合わせになるのは、ちょっと予想外。
「二つ目のご褒美……」
何くれんの?
バカみたいに甘ったるい声が、
自分の口から出る。
ひまりはそれを聞いた瞬間。
ちょっと困り顔して、唇をキュッと締める。そして、照れ臭そうにはにかむと……オルゴールをブレザーのポケット入れた。
それから……
右手を左胸に添えて、長いまつ毛を揺らす。
多分、気づいてないだろうけど。
やばいぐらい、今、鼓動を打って脈が狂い出してる。
ひまりの何気ない仕草。
それに俺は熱くなり、
それだけで狂いそうになる。
スッと開く瞳。
一呼吸置く時間さえ、
どうしようもなく焦らされ……
「ひまり……」
俺は逆に目を伏せ、無意識に名前を呼ぶ。
急かすつもりはなくても、心の何処かで求める声。掴んだ手を掴んだまま、ひまりの口元に運ぶ。
(早く、聞かせて欲しい)
でも、聞いた瞬間……
瞼を持ち上げ、真っ直ぐに見る。
「……貴方がーー」
心臓が止まりかけ……
気づいたらひまりを抱いて、
芝生の上にいた。