第176章 涙色の答案用紙〜最終章〜※後編
校舎裏の角を曲がり、
裏庭に着くと……
……♩…。
音色が一瞬耳を掠めた。
脚に任せてゆっくり地面を踏む。
一歩、また一歩。
心の奥底から湧き上がる感情。
ここに来るまで、落ち着いたフリ。平然とひまりを探してた癖に……ここに来た今は、落ち着かない。
(……っと。何でこんなに)
ひまりしか、見えないのか知りたい。誰に告白されようが、一度も揺れたことなかった。
正直、どうでも良かった……ひまり以外にどう思われても。
冷たい、最低。そう言い残すか。
泣くか怯えるかして、走り去るか。
まともに返事したのは、ひまりが聞いてんの分かって……
ーー……好きな子いるから。
意識させたくて副部長に言った、返事。
あと、白鳥への返事。
ーーはっきり言って、頼まれなかったら一緒にいない。白鳥といるのはただの義務。
でも、ひまりは違う。俺の意思で、俺が放っておけなくて、俺が一緒にいたいんだ。
あの後、白鳥が倒れて気づいた。
泣かれても、傷つけても、一緒に……
俺が側にいたい。
側にいさせて欲しい。
勝手でも側にいたいと。
(今、やばいぐらい緊張してる)
肩が浮き、溢れる息。
期待。浮かれる。そんなの軽く飛び越え、今までの月日が全部一つにまとまった……。そんな感情が俺の中で、突き抜けていた。
いつも自分が先に来ていた場所。
一緒に来たのは、小さい頃の一度きり。
石碑に近づきながら……
ジャリ……
(いない……?)
探し求めているお姫様の姿が見当たらず、一気に味わう喪失感。
代わりにちょこんといた。
「オルゴール……」
俺のではない。
自分のはポケットの中。
(ひまりの?)
それを手に取り、
持っていた書物をそこに置くと……
一歩下がり……
振り返る。
見渡す限りどこにもいない。