第175章 涙色の答案用紙〜最終章〜※中編
手を繋いで、辿り着いた野原。
「ねえ、怒られない?」
私はピンクのカーディガンに付いた葉っぱを叩く。おばちゃんは近くの商店街で立ち話。
いっちゃんは、本を読んでくれるみたいだけど。
「見つからなければ、大丈夫」
ふわふわの髪を揺らして、ぐいぐい引っ張るから私はそれに付いていく。
「おっきい石!」
「多分、これが石碑(せきひ)?」
二人でその前にちょこんと、座って。
むかしむかし
ある戦国武将と
姫君は恋に落ちました……。
いっちゃんは読み終わると、パタンと本を閉じてお膝の上に置く。
「その場所がここ?」
「多分、……手を出して」
ちょっと元気ない白詰草。
いっちゃんは顔の前で手を動かして、上手に輪っかを作って、私の左指にはめると……
「言い伝えごっこ」
まるでテレビで見た花嫁さんみたいに、いっちゃんは私の手を柔らかく握って笑った。
「ゆびわ?……ありがとう!」
白いお花のゆびわ。
嬉しくて頬っぺたが、上がる。
そしたら、いっちゃんは急に顔が林檎みたいに真っ赤になって、今度は三つ葉を小指にちょんと乗せるから…
落ちそう。
もう片方の手で押さえると……
「ひまり」
いっちゃんの顔が近づいてきて、
ちゅっ。口と口がぶつかった。
「なんで、チューするの?」
お母さんとお父さんが、たまにしている。私にもしてくれるけど、いつも頬っぺた。
「俺のお姫様だから」
(おひめ様?およめさんのこと?)
「いっちゃんのお嫁さんになるの?」
(ずっといっしょ?)
「いつか、ここでね」
私はおっきい石を見て。
次にいっちゃんを見て。
(約束したら忘れないかな?)
「うん!約束ね!」
右手の指で左の小指を握って、二つの指輪を付けたまま、ほんわか笑ういっちゃんと指切りした。