第174章 涙色の答案用紙〜最終章〜※前編
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関係が変わり始めた夏。
焦らして、追いかけさせた。
「ある戦国武将は、
貴方を求めて止まらない」
「ヒント」を都合良く使って。
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一人で歩く通学路。
笑ったり、泣いたり、
怒ったり、拗ねたり。
一歩前を歩きながら、俺は見ていた。
どんな表情してるか、どんなことを考えているか。何してるのか、何がしたいのか、声だけでもほんと……わかりやすくて。
俺は足を止め、振り返る。
(いるわけ……ないか…)
数秒、左の肩越しに影を見る。
機嫌が良いと、はしゃいで飛び回るし。
怒らせると、鞄で軽く叩いてくるし。
拗ねてる時は、頬を膨らませるし。
泣きそうな時は、すぐ俯くし。
少し目を細めれば、次々と幻想で現れるひまりの姿。俺は鞄を一瞬だけ下ろして、すぐに右肩に乗せる。
ドジだから、いつ転けそうになっても手を添えれるように。口実があれば、いつでも繋げるように。左手は意識してあけていた。
自然と、ひまりは左側を歩き……
髪を左耳にかける癖。
潤んだ唇から出る柔らかい声。
ふわりと漂う甘い花の香り。
ーー家康。あのね?昨日ね?
聞いてんのか、話しかけてんのか。
良くわかんないこと喋って。
それが、バカみたいに可愛いくて。
甘やかしたい。意地悪もしたい。
たまには優しくもしてあげたくもなるし……ほんと振り回されてたのは、こっち。俺の方。
春も初秋も
陽が眩しいのは変わらない。
ひまりも同じ。
透き通った光みたいに……
「何色にも染まんない」
秋色に染まった空に向けて、そう呟くと俺は歩くスピードを上げた。