第174章 涙色の答案用紙〜最終章〜※前編
ジャーッ……
洗面所で冷たい水で顔を洗い、
一気に眠気を覚ます。
(珍しく寝癖ないし)
自分でも自覚している猫っ毛の髪。くしゃりと掴み、簡単に整える程度で済む。
(浮かれるなって方が無理か……)
寝付けない夜、浅い眠り。
自分と向き合った瞬間……
俺はまた必死に、ひまりを求める。心に触れるだけでは足りない。声も表情も身体も全部欲しい。
春も秋も昔も今も、それは変わらない。
リビングに行くと、
「天音ちゃんは、昨夜から病院に移って貰った。手術は週末予定だ」
父さんが珍しくソファで寛いでいて、コーヒー片手に声をかけてきた。手術後の話も聞き……
「お前とひまりちゃんのお陰だと、ご両親は喜んでいたよ」
俺は無言で頷く。
あの小さなひまりの光が広がり、心境に変化を及ぼしたんだろう。
父さんは、また二人で見舞いに行ってやれ。ただ、それだけ言って新聞を広げた。
「……弁当は?」
いつもなら朝食と一緒にテーブルに置いてあるはず。俺は椅子に座り、キッチンに立つ母さんに尋ねる。
「あらぁ〜聞いてないの?今日は、愛情たっぷりのお弁当。可愛いお姫様が作ってくれてるって、聞いたけど?」
思わず、手に取った箸がポロリと落ちニヤケそうになる口元を隠す。素直に喜べばいいのに?母さんに揶揄われながら、俺は平然として味噌汁を慎重に啜る。
「今日の水瓶座のラッキーアイテムは、手紙。恋愛運はバッチリ!思い出の場所で愛の告白が!」
珍しく耳に入ったニュースの合間に入る、占いコーナー。
「顔?ニヤケてるわよ〜?」
さすがに限界だった。
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自分だけを見て欲しい。
独りよがりな想いが
時間と共に走り出し…
お姫様に「変化」が、見え始めた。
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