第32章 月見ず月(4)
「何か食べたい物ある?」
「……ひまりが食べたい」
一応、冗談を言う元気はあるみたい。
私は、はいはい。と子供を嗜むように返事をして布団を被せた。
「……本気なんだけど」
「そんな冗談言う元気あるなら、帰るよ?」
「それは、やだ」
(ふふっ。何か可愛い)
小さい頃は女の子と間違われるぐらい、可愛かったしね。
私は体温計取りに行くついでに、タオルと飲料水も用意する。
知らない家だったら、きっと探すだけでも一苦労だと思う。
スムーズに物の場所が解るのは、幼馴染の特権。
「……三十八度!って!病院行くレベルだよ!」
「滅多に引かない分、高熱出やすい体質だからね」
薬飲んだから、寝たらすぐ治る。
家康は少し気だるそうにそう言って、頭に腕を乗せ、目を閉じた。
私はおでこに冷やしシートを貼ると、軽くタオルで汗を拭う。
(あれ?そう言えば、ワサビ居ないよね?)
さっきリビングに行った時、ゲージの中には居なかったし……?
ちょっと不思議に思いながら、家康の寝顔を見る。
(また、明日様子見に来るからね)
暫くすると、
家康は寝息が聞こえて……
呼吸は苦しそうだけど、
薬が効いてグッスリ眠ってる。
(もう、大丈夫かな?)
そろそろ帰ろうと
立ち上がった時……
「ひまり……」
寝言で名前を呼ばれて……
もう少し、
一緒に居てあげようかな?
降り始めた雨の音が、
まるで子守唄みたいに心地良くて……
つい、ウトウトと目を閉じてしまう。
いつの間にか、
私も深い眠りに落ちていた。