第173章 涙色の答案用紙(36)修学旅行編
先生は私に手紙を返すと、今度は石碑のレプリカを指差した。そして、裏側を見るように言われて……手でくるっと反対に向ける。
「俺が今日、教えてやれるのは一つ。その宝石は『アレキサンドライト』と言う名だ」
「アレキサンドライト?」
そう尋ねると、先生は立ち上がり「少し待っていろ」と言って、白い羽織を翻しながら広間から出て行く。
暫く待っていると……
先生は手に燭台を持って、戻ってきた。
メラメラと揺れる赤い蝋燭の灯り。
昼間なのに?何でかな?と、疑問を抱きながら先生の言葉を待っていると……
「アレキサンドライトは、不思議な発色を持つ石だ。昼間の太陽、蛍光灯の光の下では、緑色。ロウソクや白熱灯の下では……」
先生は、私の隣に移動する。
「少し火を近づける。顔を離して持っていろ」
コクリと頷き、腕を真っ直ぐ伸ばす。
そして先生は宝石の部分にロウソクの火を、そっと近づけた……
瞬間だった。
瞬きする時間もないぐらい……
あっという間に……
「……石が赤色に…変わった」
鳥肌が立つような現象。
それを目の当たりにした私は、ただじっと赤い三つ葉に変化した石を見ていて……少しずつ頭が動く。
赤いハートのシールが付いた、
三通の手紙。
さっきの会話で言っていた、
手掛かり、ヒント。
そして、三つ葉に似た……
「徳川家」の家紋「葵紋」
繋がりはじめた。
手紙の謎。
「家康が差出人……?でも……一通目の時、運命なんてってバカして……」
「この石は希少価値も高く「宝石の王様」と呼ばれ……「神様のいたずら」とも称されている」
「宝石の王様……?神様のいたずら?」
「手紙の一通目と二通目の差出人は、『神様のいたずら』神の仕業かもな?そして……三通目が『宝石の王様』」
私は石碑のレプリカを床に置き、
三通目の手紙を胸に抱く。
濡れて、変色して、唯一宛名が書いていなかった手紙。
中身も滲んで読めない、手紙。
先生は、優しく私の頭を撫でながら……
さっき三つ目の
宝石を届けたのは、誰だ?
(家康……)
ポタリと流れた一筋の雫。
しわくちゃになった
手紙が、私の涙で染まった。