第173章 涙色の答案用紙(36)修学旅行編
仕掛けられた罠。
無駄に時間を使い、やっと終えた。
くたびれているがよく磨かれている長い廊下を突き進み、無言で大広間へと向かう。
目の前で、足音一つ立てない忍者の格好をした男。佐助は、案内をすると言って歩きだしてからは、固く口を閉じた。
俺は、走りたい衝動を抑えながら自分の左手をふと見る。
(……違和感あり過ぎ)
ずっと繋いでいた手。
一旦、離れるとこれ程、落ち着かないものだと知る。
ひまりと手を離してから、一時間は経っているかいないか。何しろ着替え時に携帯は没取、腕時計は取られ、時間を知るすべが今は無い。
頭の中は相変わらず、
ひまりしかいない。
軽く指先動かしてから、
右肘を握った時……
「では、鬼を退治して姫を救って下さい」
淡々とそう言われ、俺は軽く深呼吸をして襖を開く。
すると、
「待ちくたびれたぞ」
鬼が白い羽織を肩にかけ、上座で呑気に脇息に寄り掛かっていた。
「家康、遅かったな」
「クッ、罠に手こずったか?」
秀吉先輩も、明智先生もそれぞれ扮装したまま、まるで時代劇を再現したように、下座の隅で畏まり……
早くそこに座れと、目で訴えてくる。
渋々、鬼の前に座り「ひまりは何処ですか?」開口一番にそう聞く。
「さぁな?貴様に愛想尽きて、帰ったのではないか?」
「この後、色々予定があるんで。早くして貰えますか?」
「そう急ぐな。先ほど、姫の身体を堪能していたからな。今、休めている所だ」
一瞬、ピクッと眉が釣り上がりそうになるが、堪える。無駄な挑発に乗るのも癪だと思い、目だけ据えると……鬼は笑う。
ニヤリとかニヤッとか、今まで何回、この嫌な笑みを見てきたか。俺は話していても時間の無駄だと思い、スクッと立ち上がると……
鞘に触れる。
「鬼退治ってこうゆう事?」
「同盟相手に刀を向ける気か?」
「自分もそのつもりで、刀を持ってるんですよね?ってか、いつの時代の話をして。それよりも早く指示して下さい」
俺はあえて最後の言葉は、目の前の鬼じゃなく……部屋の隅に座る二人に尋ねた。