第173章 涙色の答案用紙(36)修学旅行編
「傷ついた心」「傷つけた心」二人はすれ違う中で、両方を抱え、一緒に過ごした時が長いぶん……下手にお互いがその気持ちを汲み取ってしまった。まだ、未完成な愛だけではそれは乗り越えれない。
心を欲しがるだけでは、無理だった。
信長はひまりの身体のラインを弄るように、手を動かしていき……
「や、だ……っ…」
「俺には話せたのだろ?ならば、心を許したも同然だ」
拒もうが無理矢理、首筋に噛み付き打掛を脱がそうとした瞬間。
(どうやら、気づいたようだな……)
小刻みに震える鎖骨を見て、手を止めた。
「ご、…めん…なさい……」
瞳から、涙が吹き出すように溢れ……ひまりは、ようやく気づいた……
甘えたい自分がいることに。
そして、それは信長にではなく……
家康にだと。
「ご、めん…なさい……わ、たしまだ、全部が…追いつかなくて………」
「……貴様は元々、鈍い。だがな心は一つしかない。そして、心の中は決して一つだけではない」
色々な感情があってこその「心」
また、傷ついたら。
もし、傷つけたら。
明日、想いを伝えたい。
あの場を辛い場所にしたくない。
想いをまだ伝えていない。
けど、伝える前に甘えたい。
不安なことを受け止めて欲しい。
もし、責めてるように聞こえてしまったら?上手く伝えれなかったら?
ガッカリされたら?
自信がない。
でも、笑顔を見て欲しい。
傷から生まれた、複雑な感情。
しかし、心は一つしかない。
「好き」だからこそ、傷が出来てその感情が生まれるのだ。
「ひっ……く……」
「あの場で想いを伝えたいならば、今ある想いだけぶつけてやれ。我慢する必要などない」
信長はスッとひまりから、体を離して起き上がる。
「遠慮せずに、あの馬鹿に甘えてやれ。散々、焦らして、困らせるぐらいで丁度良い。家康が男になる良い薬なるからな」
信長はひまりを起こして、腕の中に包み込み、涙を拭う。そして最後に告げた……
幼馴染である前に、
一人の男と女であることを。
そしてまだ、
自分達が高校生だということを。
ひまりは、その心を知り……
信長に言われ、広間から出て行く。
「次は、あの馬鹿の番だな」
羽織を翻し、刀をその手に取った。