第173章 涙色の答案用紙(36)修学旅行編
二人が最後に学ぶのは……「ある心」
男と女に必要なある心、そして成長に必要なある心。
「……今の貴様は、何を見ている?」
信長は突き放すように、少し苛立った声でそう、耳元で囁くと……ひまりの手から素早く石碑を奪い、コトリと床の上に置く。
え?信長の行動に、
キョトンとするひまり。
しかし、気がつけば……
ガタンッ!
その場に押し倒されていた。
「せ、先生!」
くるりと反転した視界。
背中に伝わるひんやりと固い感触。
全く展開について行けず、
驚き声を上げたひまりだが……
「無理矢理、奪って欲しいか?」
目前に迫る信長の真剣な顔、抑揚のない声。それにゾクッと、身体中に冷たいモノが走り頭が真っ白になる。
さっきとはまるで、別人。
優しく自分の頭を撫でてくれていた者と、同一人物とは思えない。
「せ、……んせい。何を言って…」
声が震える。
その奥に秘めた強いモノにひまりは、何かを感じ取り……気圧され怯えてそれ以上は言葉を繋げれず、息をゴクッと飲んだ。
「貴様の心は誰のモノだ?貴様は誰の心を欲しがった?」
信長はそう言いながら、ひまりの左胸に手を添え、やんわりと揉む。
「いやっ!!」
「何が嫌なんだ?」
抵抗して覆い被さる信長の胸を必死に押し返すが、力で敵う筈もなく……頭上で両手首を固定され、身動きが取れなくなり……
「傷つくのが嫌なのか?それとも傷つけるのが嫌なのか?」
信長は一切、視線を逸らさず感情を見せない眼で、見下ろす。
「ち、が……っ」
「傷しか見れんのか?傷を気にすることしか出来ないのか?」
「ちが、う……っ」
ひまりは声を絞り出し、苦しげに顔を歪めた。二人はまだ一番大事なことに、気づいていない。
家康は想いを伝え、ひまりの傷、全てを受け止めようとした。
ひまりはその想いを受け止め、家康の傷に触れてしまったのだ。