第173章 涙色の答案用紙(36)修学旅行編
「先生……」
その優しいぬくもりに、胸に引っかかっていたものが取れたのか……
ひまりは、
「……聞けないんです。何だか家康が…また自分を責めてしまう気がして」
新学期のことを簡単に信長に話した後、そう言って、目を閉じる。
天音と、
二人きりで過ごしていた時間。
ひとつ屋根の下で年頃の男女。
家康の想いを聞き、色々と誤解は解けていたが……それでも、まだ微かに不安は残っていた。
(あんなに想いを伝えてくれたのに、まだ不安だなんて……)
それに、少なからず自分も政宗に甘えていた。だから余計に聞きづらいのもあったのだ。
まだ、高校生。
色々と複雑な年頃のひまり。
「何でも受け止めてくれるって……ちゃんと教えて欲しい言ってくれたんです。でも、何を聞けば良いかもよくわからなくて。家康は逆に、私が傷つくと思ってくれてるのかな?……自分からは何も言わなくて」
それに自分では笑っているつもりだと。でも、家康が時折見せる不思議そうな顔、困った顔を見ると、やはり何か違うのだろうと、自信も失くしかけ……
(私の笑顔に恋してくれたって、言ってくれたのに)
今は、ガッカリさせているのではないかと、不安も少なからずあった。
「ちゃんと返事をしたくて、待って貰ったのに、本当に勝手ですよね」
約束を守りたい気持ち。
ひまりは、石碑のレプリカをぎゅっと胸に抱く。
それと同じぐらい、石碑を辛い想い出の場所にしたくないと、あのプロフィール帳を見て、思っていた。
家康が書いていた『学園の石碑』を。