第173章 涙色の答案用紙(36)修学旅行編
息を潜め、穴から覗く一人。
気配を完全に消し、天井裏から家康の様子を伺っていた佐助の手には、赤いスイッチが。
罠を発動させる頃合いを、今か今かと見計らっていた。
(ワームホールも、また。一から調べ直す必要がありそうだ)
軽く息を吐き、覗き穴から顔を離すと、眼鏡をスッと持ち上げる。
昨夜、家康が必死に探し回って居る最中に、京を覆い尽くした黒い雲と大雨。暫くすると、本能寺跡付近にいた自分達の頭上から姿を消し、赤い橋がある場所。その一点に集まり出していた。まるで、吸い込まれるように……
佐助は、家康から聞いた橋の不思議な現象を今朝がた、信長から報告を受け、ある仮説を立てていたのだ。
(あの手紙……。彼女ならわかるかもしれないな)
明日、石碑で見せようと決め。
今は、一先ず……
ピッ!!
「はぁ!?な、何でいきなり床が!?」
無表情のまま、罠を発動させる。
底が急に抜け、慌てる家康を見て……内心は満足気。
(家康公、お許し下さい)
生まれ変わりかどうかは定かではないが、徳川家康の伝記を愛読している佐助。名前が同じだけでも、尊敬に値する存在。
しかし、まだ年頃の家康には親近感も持っていた。
(頑張って下さい。これも、愛故の試練です)
心の中で話し掛け、次々に罠を発動。
ぐらぐら揺れる一本橋。
触れた瞬間、矢が飛んでくる縄潜り。
「はっ……はぁ……っとに。もしコレ、刺さったらどうなんの」
息を切らし、壁に刺さった矢をポキッと折る家康。
(一応念の為、止めるスイッチも用意してありましたが。お見事です)
家康の運動神経の良さに感服し、
天井から舞い降りた。