第173章 涙色の答案用紙(36)修学旅行編
敷地内の最奥に……
異様な存在感を放つ城。
その入り口で、家康は__
僅かに開いた門の裏で身を潜め、息を殺し、忍び込む隙を探ろうと……砂利を踏む音を聞き、近くに居るであろう門番の動きを読んでいた。
ジャリ……ジャ……
左右に離れていく足音。
(今なら、振り切れる)
サッと飛び出し……
「城に曲者が、侵入したぞーっ!」
「捕まえろーっ!」
一直線に城外を走り……
持ち前の脚力で数人の追っ手を振り切りると、城内に潜り込んだ。
(とりあえず、案内通りに……)
家康は足音に気をつけ先へ進む。
ご丁寧書かれた壁の赤い矢印。その看板を見て、訝しげな表情を浮かべつつも……一刻も早くこの茶番劇を終わらせたい一心で、足を動かす。
人の気配は一切ない。
(油断するのは、危険。急に仕掛けてきそうだし)
そう思いながらも、動きは速くなる。
艶美な格好をしたひまり。それが、今、信長の元に居るかと思うと、気が気でない。
(文句の一つでも、言わないと気が済まない)
二人で過ごせる、修学旅行の最終日。
あれこれ計画をひっそりと立てていた家康。
(夏の合宿最終日。確か、大いに邪魔してやるとか言ってたけど。ほんと、邪魔し過ぎ)
それを思い出し、怒り似た気持ちが心の一角で沸々と燃えてはいたが……昨夜のこともあり、あながち邪魔だけが目的ではない。そんな気もしていた。