第173章 涙色の答案用紙(36)修学旅行編
『鬼ヶ潜む城の中』
大広間にて。
ひまりは、羽織を脱がされ打掛一枚のなまめかしい姿で……
「そう、怒るな。昨夜の恩を忘れたのか?」
赤い鬼の面を少しずらして被り、上座に座る信長をキッと、強気に見ていた。
「忘れていません。本当に感謝しています。……でも!羽織を脱がす必要が理解できません」
「待ちくたびれて、退屈だったからな。目の保養だ」
脇息に寄りかかった信長は、満足そうに鼻で笑う。それを見て、頬を膨らますひまり。しかし、一番気になっていたのは……信長に渡された小さな石碑。
大きさで言うと、一般的な手紙のサイズ。現に裏には、L判サイズの写真が入れれそうな作りに……
見た目は、戦国学園のモノと瓜二つ。
まるで、観光地の土産屋に売っていそうな、建造物やシンボルの置物。そんなイメージ。
しかし、本物の石碑と一ヶ所だけ違う所があった。
ひまりは首に掛けていた紐を頭から抜く。着替えの時に渡された小さな巾着の首飾り。その中に石を仕舞っていたのだ。
「この石を、三つ嵌め込めば良いのですか?」
金平糖ぐらいの大きさの石。
緑色のハート型に加工され、石碑のレプリカの裏に、ピッタリと埋め込めれそうなハート型の穴が三つ。
「三つ揃うまで、待て。それはある宝石だ。鮮やかな発色なモノは珍重でな。手に入れるのに、少々手こずった」
「ほ、宝石ですか!?そんな高価な物!……あれ?ちょっと外で見た時と色が……」
「……今は、仕舞っておけ」
ひまりは不思議に思いながら、再び巾着の中に戻す。信長はフッと笑い、家康の到着まで……
「ひまり、側に来い。話し相手にでもなれ」
連れさらわれたとは思えない程、待遇の良さ。ひまりは困惑な表情を浮かべながらも、そそくさと立ち上がり信長の隣へ移動した。